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総合的病害虫管理技術
(IPM:Integrated Pest Management)
IPMをご存じだろうか?
現在、農業経営を行う上ではとても重要な技術の一つです。簡単に要約すると、病気とか害虫をやっつけるためには、一つの手段ではなく、総合的に色々な手段を複合的に行いましょう!という技術です。
色々な手段を複合的に・・・?
まずは色々な手段を知る必要があります。
化学的防除
農薬による防除
昔、農薬が最強!と思って、農薬をバンバン使っていた時代がありました。しかし、近年では環境汚染や生態系への影響、さらに健康面への影響から、農薬使用の使用について考え直さなくてはならなくなりました。
消費者からしても、農薬を使用せず、極力無農薬で安全な野菜が食べたい。という欲求もあると思います。
しかし、農薬無しで野菜栽培をすることは結構難しいのです。
病気が一株でも発生すると、すぐに広がりますし、夏場は害虫の駆除に追われます。手で捕殺するのも限界があり、農薬を使用するのです。
しかし、農薬を使用し過ぎると、環境や私たちの健康への影響があるだけでなく、害虫や病原菌を強くしてしまうことがあるのです。
ん?強くする?
そうです。農薬を使用することで害虫や病原菌が鍛えられていくのです。
何!?わざわざ敵を鍛えているのか?っとなりそうですが、そうなのです。(適切な使用をしないと)
そのメカニズムはこうです。
農薬を使用しているとほとんどの害虫や病原菌は死んでしまうのですが、稀に生き残る害虫や病原菌がいます。
人間でもたまにとても優秀な才能を持った子供が生まれるように、昆虫や細菌の世界にも子供で素晴らしい能力(この場合は耐性を持つこと)を持った子孫が生まれることがあります。
そもそも、農薬なんかが定期的に降りかかる環境なんて非常に劣悪だと思いませんか?
劣悪な環境に置かれたとき、我々人類もそうですが、進化して今まで生きてきました。
「進化」です。
それは害虫や病原菌も同じで、劣悪な環境をどうにか打破しようと(子孫を繁栄させようと)次の世代には、その環境に耐えられるような仕組みを残そうとします。
昆虫や病原菌はそのサイクルが人間に比べたらとても短いので短時間で「進化」してしまう訳です。
なんと!ではどうすれば?
様々な種類の薬剤を使用
(同じ薬剤を極力繰り返さない)
まず一番容易なのは、複数の薬剤を使用することです。農薬の中には同じ害虫や病原菌に効く薬剤が複数存在します。
例えば、アブラムシを退治したければ、オルトラン(浸透移行性)もいいですし、スミチオン(乳剤)でもいいし、アファームでもいいわけです。
しかし、何種類も買うのが勿体無い!ってことで1種類だけを使用していると先ほど言ったように、アブラムシを鍛えることになり、耐性がついてしまいます。
(薬剤抵抗性害虫の出現)
同じ薬剤を使用することは敵のトレーニングに付き合い、鍛えてあげているようなものです。
自分自身が鍛え上げた敵を倒すのに農薬の濃度を濃くしてみる
↓
最初は効果抜群かも知れないけど、その内生き残りがまた、環境に適応しようとさらに強い抵抗性を獲得する
↓
さらに農薬の濃度を濃くする
↓
繰り返し・・・・・その内最強の害虫が生まれてきそうではありませんか?
なので農薬はお金はがかかりますが、何種類か所有し、使い分ける必要があります。
農薬による防除は、農薬会社が一生懸命作った製品なので効果は非常に高いです。
しかし、多用は禁物ですし、分量や使用回数を守らなくてはいけません。
耕種的防除
病原抵抗性品種を栽培
病原抵抗性? 先ほど薬剤抵抗性害虫について触れましたが、何も強くなるのは病害虫だけではありません。植物も強い品種がいます。そのような品種を導入することで、特定の病気に対しては抵抗性を有しているため、病気になりにくいのです。
土壌病害(土から攻めてくる菌)の場合、主に接ぎ木苗を利用して病原抵抗性品種を導入します。接ぎ木とは植物同士を合体させることです。
この技術を利用すると、土台(根の部分)は土壌の病気に強いけどあまり味が良くない品種にし、本体の方に土壌の病気には弱いけど味がいい品種を合体させることができます。
これにより、土壌病害に強く、味も美味しい野菜ができるのです。
輪作
輪作とは、同じ種類の野菜、もしくは同じ種ばかり植えるのではなく、違った種類の野菜を栽培し、同じ土地には連続してその作物(野菜)を植えないようにすることです。
なぜなら、同じ野菜ばかり植えているとその野菜に必要な栄養素がどんどん無くなり、上手く育たなくなったり、その野菜が好きな害虫や病原菌がどんどん増えてしまうからです。
例えば下図のように、今年ナスとトウモロコシを植えたのであれば、来年はトウモロコシを植えてた場所にナスを植え、ナスを植えてた場所にトウモロコシを植えるなどすると良いのです。
よく言われる組み合わせが、果菜類(トマトやナスなど果実を収穫する野菜)→葉菜類(レタスやキャベツなど葉を収穫する野菜)→根菜類(ダイコンやニンジンなど、根を収穫する野菜)の順で繋いでいくとより良いとされています。果菜類は果実を大きくするために、リン酸やカリウムを消費しますので、その後は主に窒素を使って大きくなる葉菜類にする。
また、根菜類を入れることにより、根が地中深くまで伸びるため、土壌を柔らかくしてくれる効果もあります。
生物的防除
生物的防除とは、生物を用いて病害虫を抑制する方法です。例えば、身近なものだとアブラムシの天敵であるテントウムシを使って防除するとか、センチュウに対してはマリーゴールドを近くに植えておくか作付け前に植えておくと効果が出るといったものです。
なんか自然な感じがしませんか?
ちなみに、マリーゴールドを植えてセンチュウを防除することに関してはモザンビーク(アフリカ)でも実施していました。世界共通で通用する手法なのかもしれません。
中には、細菌の力を使って害虫や病原菌をやっつけたりもします。こういったものを生物農薬と呼びます。
有名なものは「バチルス菌」ですね
バンカープランツ
バンカープランツとは、おとり植物のことで、天敵を増やしたり、温存したりする植物のことです。以前記事にしたクレオメもバンカープランツの一つです。
その他にも、ヨモギやソルゴーなどを植えることで天敵が住んでくれるので、目的とする作物に害虫がついた時などはヨモギやソルゴーに付いている天敵がすぐに退治してくれる仕組みです。
メリット
農薬の回数を減らすことができる。
天敵をその都度放つのではなく、待ち伏せしている形なので手間がいらない
デメリット
効果が確実とは限らない
バンカープランツを栽培する土地が必要になる
物理的防除
忌避資材の利用
被覆資材であるシルバーマルチは害虫を寄せ付けない効果があります。
アブラムシやアザミウマ、ウリハムシなどは、シルバーマルチが太陽の光を反射すると、それらの害虫は眩しくてマルチが張ってある畝に近づきにくくなるのです。
皆さんも鏡が張り巡らせている場所には眩しくて近付きたくないですよね?
それと同じです。
防虫ネットの利用
防虫ネットを作物の畝に張ることで物理的に害虫が作物に寄り付くことが出来なくなります。張るのが面倒ですが、基本的には外からの侵入を防げるため、効果が高いです。
害虫を防ぐことできるのでウィルス病にも効果があると思います。
まとめ
つまり、総合的病害虫管理技術(IPM)を実施することは、
化学的防除、耕種的防除、生物的防除、物理的防除のどれか一つに頼るのではなく、それぞれ、できること、その作型や経営規模に会うものを総合的に実施することです。
- 一つだけの手段では防ぎにくい病害虫も、色々な角度から試してみる
- 化学的防除、耕種的防除、生物的防除、物理的防除を色々実施する
- 耐性菌や薬剤抵抗性害虫が出現しないように、農薬は複数の種類を使う
- 輪作は簡単に、無料で実施できるのでオススメ
皆さんも、自分で作って安心で美味しい野菜作りを実践してみて下さい。
これからの時期、特に害虫に注意ですよ〜。